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苦楽一対 joy and sorrow

個性としてのHSP

ある時「HSP」という言葉を知りました。Highly Sensitive Personの頭文字で「非常に感受性が強く敏感な気質をもった人」と定義されています。ネットですぐにできる診断テストをしてみたところ、私自身もこのHSPに該当することが分かりました。
それを知って、これまでの人生が腑に落ちたような気持ちになりました。これまでの人生における苦しみと、楽しみ。多くの事柄がこの気質によるものだと分かったからです。

HSPの人はその感受性の強さから、自分を責めやすく、うつ病になりやすいと言われています。実のところ、私にもそういう時期がありました。今でもヘルペスや口内炎で悩まされることも多いです。またHSPの人すべてに当てはまるわけではありませんが、光をまぶしく感じることや、コーヒーが飲めないなど、具体的な性質として現れる部分もあります。

私は朝起きると、毎日「歩行瞑想」といって、近所の神社や城の周辺をウォーキングをしながら瞑想する時間をとっているのですが、この時にいつも、サングラスをしています。誰かがサングラスをした私を見ると、もしかしたら「格好つけている」ととられるのかもしれません。でも実はそうではなく、横断歩道の白がまぶしかったり、周囲の人や車などから飛び交う情報が入りすぎるため、一定の遮断をする必要があるのです。

歩きたい、想いを巡らせたいけど、雑念は払いたい。

HSPの人は、多くの情報を敏感に察知してしまう性質があります。今、相手が何を考えているのか、本音を言っているのか、取り繕っているのか。それが気になりすぎて、うまく伝わらない。どう言えば伝わるのかな。あの時、もっとこう言えば良かったのかな。

私は、HSPであることで人とのコミュニケーションの悩みが絶えませんでした。相手の人にとっては大したことないことでも、私の中では、ずっとぐるぐると考えてしまうのです。

でももちろん、悪いことばかりではありません。この気質を持っているからこそ感じられること、聴こえてくることがある。HSPは病気ではなく、1つの個性であり、それを活かせるかどうかは、自分次第だと気づき始めました。

書で心を整える

人が苦手だけど、実際には人間が好き。でもずるいこと、打算的なことは嫌い。そんなことにずっと苦しみ、考え続けてきました。
でもそれは同時に、作品に向けての感情の爆発となり、表現となり生まれてくるエネルギーにもなります。だから今では、よかったなぁと思っています。

とんでもなく苦しいことがあっても、その感情はその時にしかない。書きたくなる。そして書くことで作品が生まれ、癒やされていく。

2022年のロシア・ウクライナ侵攻が始まったあと、ウクライナの女性に出会いました。彼女もアーティストで、書に興味を持ったそうです。書道を通じて自分の心と向き合う中で「書道が自分の薬です」とおっしゃいました。

私の書道教室に通ってくださる生徒さんも、書で自分と向き合い、心を整えること、心を穏やかにすることに真剣に取り組まれています。私と同じように敏感な気質を持っていて、様々なことを考え、悩む方も多いと思います。教室での時間が、大切な癒しの時間だと話してくれます。

私自身も技術の向上という意味で臨書(お手本に忠実に書く稽古)を習慣としていますが、それは同時に、自分自身の心を整えリセットする、ルーティンワークとしての意味もあります。ひたすら書き続けることで、無になる。それは苦しくも、思うように書けるという楽しさに行き着く習慣でもあります。そして何より、心が穏やかになっていきます。

ウクライナの彼女も、生徒さんも、私も。書道が薬であり、癒しであり、自分自身の心を整え、苦しみを穏やかにし、楽しみや幸せを見いだせるマインドへの道標です。

苦と楽は
表裏一体のもの

私はこの個性ゆえに、多くのことを感じとり、考えすぎてしまうことも多くあります。それは苦しいことでもあり、多くの気付きが得られるきっかけでもあります。

昔の私は、この個性の「苦」の部分だけにフォーカスしていたかもしれません。でも今では、敏感に感じ取れるからこそ、人の心のようすに気づくことができたり、自然の世界からのエネルギーを受け取ったりできることが分かりました。

そして何より私にとっては、それを書として表現できるということ。生み出すことは、苦しいことです。でも同時に大きな楽しみでもあります。

書は、生きるということに対しての様々なアプローチです。苦しいことも生きている。楽しいことも生きている。生きているから、喜怒哀楽がある。生きている間の様々な感情。それを、苦しみという負のエネルギーだけで終わらせたくない。希望をもった感情に行けばいい。

苦と楽は、別々のものだと思いがちです。でも実は、苦しみと楽しみは、表裏一体、一対のもの。私にとっては、苦しいことも楽しみにつながる、大切な前提です。

きっと世界中に、同じような苦しみを感じ、苦しみだけにフォーカスしている人たちが、たくさんいるのだと思います。
私はそんな人たちの、代弁者でいたい。作品を通じ、誰かの心が動いたりして、お役に立てればと思っています。

Principle信条